and I'll believe in you until the day I die.

映画とミリタリについて書かなかったり、たまに書いたりする。ドイツでネギとニンニクを食べ続ける実験をしている。

今更「遊星からの物体X」のラストを考える

えー、今更「遊星からの物体X」ぅーーー???

ふっるー!

オタクが「遊星からの物体X」で盛り上がっていいのは平成までだよねー!

 

いいんだよ、どうせコロナで映画館もやってなくて、プロの評論家もレンタルで古い映画の短評とか書き始めてるから。

とか思ってたら日本の映画館も再開し始めてしまったらしい。

 

 

はじめに

ここではラストに関して明確な断定は行わない。

というか、行えない。だって、監督が明言を避けたいと言っている以上、「正しい推理」は存在しないからだ。

じゃあ、何でいつまでも昔の映画を見直してあーだこーだ言うのか。鑑賞から議論まで全部ひっくるめてそれがおもしれーからに決まってんだろ!

あと、僕は基本的に論理立てて何か考えるのが苦手なので、論証を他人に頼っています。みんなもそっちの方がいいでしょ。知らないオッサンより、動画編集できる海外ニキってそれ一番言われてるから。

あと、当たり前だけど、少なくとも本編を観ていることを前提に話を進める。82年の映画の結末にネタバレもクソもないだろう。

 

 

思い出し用登場人物リスト

遊星からの物体X」には12人のあんまり仲良くないオッサンが登場する。

男性率100%。ボトムズを超えて、男女の乳首比600:4だった映画「スリーハンドレッド」を上回る男らしさだ。

(元ネタ↓)

www.youtube.com

とにかく劇中には12人のおっさんが登場するが、キャラが立ってる奴もいれば、意図的にキャラの立ってない奴もいるし、そもそもビジュアルが被ってる奴がいるので整理しよう。

 

12人の登場人物

R・J・マクレディ(マック):本作の主人公。ヘリのパイロット

チャイルズ:タフそうなアフリカ系。マクレディと最後まで生き残る

ギャリー:観測隊の隊長。面長な初老の男性。拳銃を所持している

ノールス:2人目のアフリカ系。調理係。チャイルズよりもポップな奴

ブレア:デブでハゲ。物語を動かすキーパーソン。ラスボス

ウィンドウズ:気弱そうなモジャモジャ。実際メンタルが弱い

パーマー:2人目のヘリパイロット。見た目が狂人っぽい

ノリス:気弱で目立たないぽっちゃり。心臓に疾患があった

べニングス:痩身のハゲ。お手手ミュータントになる

フュークス:メガネが特徴の生物学助手

クラーク:無口な髭面の男。犬の飼育係

コッパー(ドク):2人目のデブでハゲ。医師

 

 

2016年の誤報までの経緯

というわけで

こんなアンケートを行った。

友達の少なく人望も無いやつなので拡散力に欠けるために母数が少なくて申し訳ないのだが。

 

まず「遊星からの物体X」といえばカルトな連中を含め多数のファンを獲得し、結末や同化の順番、ブレアが同化されタイミング、フュークスを襲ったやつや死因については、インターネットでも長年議論されてきたのだ。

しかし、Yahoo!ジオティーズが去年終了したせいか、今見たら、僕が昔よく見た日本の考察サイトが見当たらない。

なので思い出しながら書くが、古参(?)の中で結末についてよく言われていたのは、「最後の二人のうちマックの吐く息が白いのにもかかわらず、チャイルズは吐く息が見えないので彼が同化された物体である」というものだった。

もちろん、これは後にカーペンター自身によって「撮影時の光の加減によってそう見えるだけ」と説明されたという事実までがセットである。

 

だが、最近(30代の感覚の「最近」)ネット上では再び「遊星からの物体X」の結末について盛り上がったことがあった。

2016年9月に出たギズモードの記事を日本語訳したものだがキッカケだ。

www.gizmodo.jp

 

Gizmodo日本版は、その記事の中で「遊星からの物体X」の撮影監督を務めたディーン・カンディDean Cundey氏が映画制作会社Blumhouseのインタビューにて

人物の瞳に微妙な「光」があれば人間で、なければ「それ」であると説明しました。

と書き、さらに

どれが人間か、「それ」かの、微妙な伝え方を模索していてね。目の微かな光に注目してみるといいよ。あれは生命の光なんだ。

と映画の演出論も展開され、説得力を高めていった。

 

2016年当時、僕もこの記事を完全に真に受けており、(この日本語版記事では結末の断定を濁しているにもかかわらず)マクレディが物体だと思っていた。

これには後述する後日談のPS2ゲームの存在も関係している。

しかしながら、先日映画のラストシーンを観直してみたところ、あれ?これカットによってはマクレディもチャイルズも瞳に光があるよね…???

 

そう!これは誤報

というかこのインタビュー自体は存在するらしいのだが、Gizmodo(英語)がまず伝言ゲーム的にインタビューの内容を誤解し、その記事を日本語に翻訳する際に結末の結論を濁して、読者に丸投げするという改悪を行って更に意味不明な状況になるという形だったのだ。クソじゃん。

 

このtogetterに当該の指摘がまとめられている。

要は、人間の瞳の輝きの要素はラストシーンには必ずしも適用できないということだ。

togetter.com

ただ、このまとめないに貼られているリンクのうち、ギズモードの誤った記事は2020年6月29日現在まだ読めるのだが、肝心の映画制作会社Blumhouseの記事がもう無いのでそちらの確認はできなかった。

 

まとめとして、とにかく監督は結末を意図的にあやふやにしており、「決定打」はそもそも存在しないということだ。

 

同化タイムライン

さて、やっと本題に入ろう。

監督からの明確な回答が無い以上、我々、作品をコマ送りして観てあーだこーだ言うオタクは、基本に立ち返って真面目に考察するしか無い。

 

こういうものがある。

www.youtube.com

 遊星からの物体X」での、キャラクターが同化された順番と死んだ順番を整理し、推理する動画だ。

 

一応かいつまんで解説する。

 

・この動画では、クラーク、コッパー、フュークスは同化される前に死亡しているので、順番から除外。行動を逐一観客が見ている主人公マクレディも除外。

・最初は犬だけがシングであり、血液テストのシーンではパーマーとブレアのみが同化されている、として推理を進める。

・べニングス、ギャリー、ウィンドウズ、ノールスは劇中で同化が描かれている。

 このうち、ウィンドウズは焼却され、ギャリーとノールスは最後の爆発で死んだ。

⇒つまり、犬到着から血液テストまで、3人の「同化」が画面外で行われたことになる。

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初期状態

 

1人目:犬が近づく影は、パーマだが髪の量が多い髪型からしてノリスである。

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1人目:ノリスが同化される

2人目:ノールスが文句を言う、キッチンのゴミ箱に捨ててあった汚れたシャツの切れ端から、他の人が襲われたことが示唆される。

捨ててあった長袖状のシャツを着ているのが確認できるのは、ブレア、コッパー、マクレディ、ノールス、パーマー。

ブレアは、シングに対して敵対行動をとっている

コッパーとマクレディは、同化の可能性なし

ノールスは、最後に同化される

ということで2人目はパーマーである。

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2人目:パーマーが同化される

この間にスパイダードッグと化したドッグシングとの戦いがある。

 

3人目:べニングスが死体に襲われ、半分同化。そのまま焼却処分される。

この直後にノルウェー基地から持ち帰られた死体など感染の恐れがあるものも同時に焼却処分される。

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べニングス感染〜死体焼却処分まで

この間にフュークスが謎の焼死を遂げる。

また、シングの脅威を理解したブレアが、基地で破壊活動(シングの同化拡大に対する敵対行為)をし、離れに隔離されることになる。

 

4人目:ブレアは離れに隔離されている間に円盤をつくっていたので、破壊活動から血液テストまでの間にパーマーかノリスのどちらかによって、同化されている。

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4人目:ブレアが同化される

その後、ノリスシングが正体を現し、コッパーを殺害。

マクレディが逃亡しかけたノリスシングを火炎放射器で処分。

 

さらに、生存者間での緊張が高まり、マクレディを切りつけようとしたクラークが彼に拳銃で撃たれ死亡。

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クラーク殺害まで

5人目:血液テストで正体を現したパーマーシングがウィンドウズを感染させる。

マクレディはパーマーシングを火炎放射器とダイナマイトで処分し、さらに同化途中だったウィンドウズシングも焼却。

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パーマーシング戦後

この時点で血液テストで潔白が証明されているため、同化されているのは隔離されているブレアのみとなる。

 

ここからがこの動画の一番重要な推理パート。

この動画では、ラストの生き残った2人のうちチャイルズが同化されていると考えている。その理由はいくつかある。

血液テストが終わった時点ではチャイルズは完全に人間である。そして、マクレディ、ギャリー、ノールスがブレアの様子を見に離れに行く間、チャイルズが母屋を見張っているが、その時には青い色のジャケットを着ていて、彼の立つすぐ後ろの壁には暗い色のジャケットがかけてあった

そして、次にチャイルズが消えたことを示すショットでは、彼が見張っていたドアが開いており、また彼の後ろの壁にかけてあったコートの色が暗い色から明るい色のものに変わっている

つまり、チャイルズはブレアシングに襲われて、衣服が裂けたことを示している。

また、チャイルズは最後に「ブレアが基地の外にいるのを見て外へ出た」と言っているが、彼が母屋を出た直後に停電し、ジェネレータは母屋内にあるのだから、ブレアが母屋の中にいるはずだ。

最後に生き残ったマクレディとのやりとりもそれを証明している。

チャイルズはマクレディに渡された酒に口をつけるが、もし彼が人間であるならば「感染は血の1滴からでも可能であり、缶詰以外は食うな」と言われたのを知っているはずで、マクレディが酒を飲ませた後に笑った理由はチャイルズがそのテストに失格したからである。

6人目:チャイルズということになる

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ブレア捜索〜ブレアシング戦前まで

そして、マクレディ、ギャリー、ノールスの3人が焦土作戦を開始し、母屋地下の発電室を爆破しようとしたところで、1人ずつブレアシングに襲われ

7人目:ギャリー

8人目:ノールス

そして、3人が悪魔合体したブレアシングを発電室ごと爆破。

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映画最後の状況

というわけで、このタイムラインの推理ではチャイルズがシングである、という結論である。

 

また、こういうのもある。

www.youtube.com

この動画の考察も、要はチャイルズがシングであるということなのだが、その根拠に最後にマクレディが彼に渡す 酒に注目している。

焦土作戦時に使うダイナマイトと火炎瓶のうち、後者の瓶は劇中でマクレディが愛飲していたウイスキーの瓶であり、発電室でのブレアシングとの戦闘時にマクレディが手元に持っている瓶は全て火炎瓶になっていて、母屋も破壊されているのだから彼が持っている瓶に入っているのはガソリンである。マクレディは、それを平然と飲んだチャイルズの正体を見抜き笑った、という推理である。

 

うーん、なんかやっぱりチャイルズがシングな気がしてきたな!!!(影響されやすいやつ) 

 

ところがこの映画には、後日譚となるゲームが存在するのである。

 

 

遊星からの物体X エピソード2」

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遊星からの物体X エピソード2」

2002年にWindowsXboxPS2でリリースされたゲームで、舞台は映画の3ヶ月後の同地点である。この映画、マックがウィンドウズを火炎放射器で焼き殺す映画なのに、Windows対応mac非対応のゲームである。

 

ゲームの内容はYouTubeにいくらでも転がっているのでそれを見てもらえばいいと思うが、日本人ニキがイキって英語字幕をつけているプレイ動画だけは英語が少しでも読めると頭痛になるレベルの英文でいっぱいなので、韓国人ニキが無言で日本語吹き替え版をプレイしている動画の視聴をオススメする。

ゲームを実際にプレイしたことはないのであまり強くは言えないが、映画をかなりリスペクトして作っているために序盤が面白い反面、ゲームシステムと後半のストーリーには問題がありそうだ。というか、そもそもこの題材は戦闘TPSには向かないのでは…「エイリアン:アイソレーション」のような戦闘型ではない良質なホラーFPSも出ていることだし、できればこちらのタイプでリメイクしていただきたい。

 

大事なとこだけ説明すると、このゲームではチャイルズが映画最後のシーンと思われる場所で凍死しており、ラスボスとの戦いの際に突然現れたマクレディと共に主人公は南極をヘリで脱出する。

要は、マクレディがシングであるという示唆と共にゲームが終わる。

 

 

忘れ去られたアメリカンコミック

www.youtube.com

この動画茶番もあって長いのだが、アメコミの話は貴重だ。ここで語られるのは

"The Thing from Another World"

"The Thing from Another World: Climate of Fear"

"The Thing from Another World: Eternal Vows"

のトリロジーだ。

何で1951年の方と同じタイトルにしたんだよ…

なおファンダムサイトによれば、この他にも

"The Thing from Another World: Questionable Research"

"The Thing from Another World: The Northeman Nightmare"

があるらしい。全てDark Horse Comicsからの出版だ。

 

まず、映画の直接の後日譚である1冊目。"The Thing from Another World"

映画ラストシーンの直後、生き残ったマクレディが基地を離れて彷徨っていると捕鯨船(に偽装した謎の組織の基地)を発見し、彼らに命を救われ、回復した後で彼らのヘリを奪い、チャイルズを探し出して殺し、他の全ての死体を焼くために観測基地に戻る。しかし、途中でネイビーSEALs的な人たちに邪魔され、当たり前のように話は信じてもらえず、焼け残った死体に触った特殊部隊はどんどん感染していき殺し合いになり、結局チャイルズは人間で生きており再会して云々。その後、部隊の隊長が呼んだ原潜の中で感染が広がってしまい、ラスボスシングを倒し、マックは脱出に成功するもチャイルズは潜水艦と共に死亡?というストーリーらしい。

とにかく、絵はものすごく上手くて綺麗なものの、要点を得ない話の作りでキャラクターもリアルに描写したため判別しづらく、あまり評価がよろしくないコミックのようだ。

 

第2部は"The Thing from Another World: Climate of Fear"。

ここからは絵が典型的なアメコミになっており、キャラクターは判別しやすくなる。ストーリーも一応続いており、前回の潜水艦から脱出したマクレディがアルゼンチン人らに助けられ、アルゼンチン最南端の街の軍事施設に連れて行かれ、今度は雪と氷ではなく、熱帯のジャングルだ!という話だ。アルゼンチン最南端でそれはないだろ…(と思ったが、調べたらかなり自然が豊かな土地ではあるらしい)

これはそれなりに面白いようだ。

 

が、3部目の雲行きがものすごく怪しい。

"The Thing from Another World: Eternal Vows"

映画のキャラは出なくなり(シークエルの3冊目だしな)、設定もシングと化した女がセックスで感染者を増やすが、感染は選択的になっており…なんか「スピーシーズ」みたいになってません!?

この動画でも最悪の設定改変と言われている。

 

まぁ、なんか長くなってしまったが、とにかく誰も覚えていないようなコミック版の後日譚では、マクレディもチャールズも2人とも人間であったということになる。

 

 

その他の可能性

その他ってか、もう後は2人ともシングだったオチだが、ここまで見た中では無かったというだけで、その可能性自体は潰えない。

そもそもマクレディ=シング説にも共通するが、ブレアシング戦からチャイルズと合流するまでにはカットが変わり、時間も多少空いていることが分かる以上、マクレディもシングでないとは言い切れない。

そもそも先に紹介したチャイルズ=シング説は、マクレディが主人公であり観客の目線であるという前提の上に成り立っている。しかし、映画の描写上、マクレディにも空白の時間はあり、必ずしもその前提は盤石ではない。

それは感染のタイムラインも同様だ。

最後にこの沼へのいざないとして、海外のFandam Wikiのリンクを貼っとく。

今まで紹介したものの他にももっと多くのゲームや媒体が存在する。

thething.fandom.com

 

 

一体、真実はどうなっているのか。それはまだ混沌の中。

それが…ドロヘドロ