and I'll believe in you until the day I die.

映画とミリタリについて書かなかったり、たまに書いたりする。ドイツでネギとニンニクを食べ続ける実験をしている。

「デューン 砂の惑星」感想

傑作SF大河と名高い「デューン 砂の惑星」の新訳版を読んだ。

デューン」シリーズは、著者フランク・ハーバードの息子らが書いたものも含めると、軽く10冊を超えてしまうが、まずは最も基本となる「砂の惑星」だけを読んだ。

 

僕は元々リンチ版の映画「DUNE」を観ていて、"それが好き"でずっと原作に興味はあったのだ。

でも、長そうだしなー。本屋に在ればまだしも、密林で頼むの面倒くせえなー。本を読むのが遅いから読んでる間他のもの読めなくなっちゃうしなー。

本をあまり読まない奴なので、こんな感じに腰が重い。

しかし、こんなシリーズがある。

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名著の見所さんや文化史的な価値を解説してくれるTed-Edのおすすめ読書シリーズだ。

設定で日本語字幕も表示できるので是非見て。

影響され易い人間なので、こういうのを観ると俄然読みたくなる。YouTubeで映画紹介動画とか表示されると片っ端から表示しないリストに突っ込むくせに。

思うに、僕の場合、映画は観慣れてるから自分で作品の価値判断がある程度できるのに対して、本は読み慣れていないから助言めいた推薦が必要なのだろう。知らんけど。あと、どこの馬の骨とも知らんやつに映画のあらすじだけ話されるの感覚的にすごく嫌(ただ単に拘りみたいなのを拗らせた面倒臭いおっさんの感覚)。

 

はい。ところで、冒頭にリンチの「DUNE」が好きだと書いた。

うむり。僕は、みんなが言うほどリンチ版「DUNE」は嫌いじゃない。というか割と好きだ。

だって、あのナビゲーターのデザイン最高じゃない? 

あと、惑星カラダンでレト公爵と水槽に入ったナビゲーターが会話した後、広間からナビゲーターが出ていくシーン。よく見ると床がビショビショになってるの。

あの、撮影ミスでは恐らくないとは思うけど、そこに力入れる?みたいな描写がたまらなく好きだった。 

登場するメカも、セット合成では重厚さが感じられる描写なのに、機内などになると急に不可解なデザインとちゃちな作りが多くなり、オーニソプターの操縦桿みたいに何故か2本もインジケーターにぶっ刺さってるマイクだか通信機だかよく分からない棒状のものなんか、もう最高だ。

そういうアンバランスさから来る、どこか「クセになる」ような良さがあの映画にはある。フランク・ハーバードの創った世界に決定的なビジュアルを与えたと言う点だけでなく、そのリンチの失敗作だからこそという妙な「カルト臭」が、僕としては評価できる。

で、結局年末年始に帰国した際に書店で上中下巻が揃ってるのを見つけて、その場で買い揃えた。しかし、上中下巻という遅読野郎にはなかなか荷の重い文量。そのせいで積ん読にされていたのだが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督で再映画化ということで、このビッグウェーブに乗り遅れるな!って感じで読んだ。

 

 

さて、乾燥した惑星が舞台の小説「デューン 砂の惑星」を完走した感想ですが。

 

犬は!?

 

犬はどこ!?

 

そう。リンチの映画「DUNE」には犬がいた。

この犬に作劇上どんな役割があるのか観客も最後までよく分からないし、登場人物たちも結構好き勝手に動き回る(ように見える)その犬をどうも持て余しているようで、よく撫でてこそいるものの、明らかにちょっと邪魔そうなのが演技にまで出ていて、なおのこと「アトレイデス家の愛玩犬」というキャラクターが表現できていなかった。

だからこそ、よく記憶に残っているあの犬。

 

原作には一切登場しない。

 

というか、舞台である砂の惑星アラキスは極度に乾燥していて、その社会には愛玩などと言う下らない理由で余計な生き物を生かしておく余裕はどこにもないのだ。

なんせ、アラキスでは水が何もよりも大事で、原住民フレメンの社会もその僅かな水で何人を維持できるかを常に考えながら一滴の水も無駄にせずに生きているくらいなのだから。

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と思ってたら、やっぱり原作ファンの間でもネタになっていたらしい。

この動画のキャプションでも

In the 1984 film "Dune", House Atreides has a pet pug that was not in the book. The dog is present for many key moments, and even leads a charge against Sardaukar legions with Gurney Halleck in tow. After disappearing during the confusion of the fall of House Atreidis the dog reappears at Paul's coronation, having somehow survived the harsh climate of Arrakis.

1984年の映画『デューン』では、アトレイデス家が本には登場しないパグをペットとして飼っている。この犬は多くの重要なシーンに登場しており、サーダカー(皇帝の親衛隊)に対する突撃の時でさえ、ガーニー・ハレックと共に戦列で先陣を切っている。アトレイデス家凋落の混乱の中で姿を消した後、アラキスの厳しい気候をどうにかして生き延び、ポールの戴冠式で再登場する」

とか書かれてる。

 

いや、何だったんだよあの犬… わからない

誰も知らない 知られちゃいけない

あのパグ犬が 誰なのか…

 

まぁ、そんなことはどうでもよろしい。ここから真面目な感想。

 

読み始めた当初は、若干の後悔であった。というのも、世界の秩序や統治機能や文化がすでに完全に回ってる銀河にいきなり放り込まれるからだ。登場人物の名前や世界観の風習も説明ぶった説明はほとんどなく、すでにその風習が馴染んで何百年という宇宙が舞台なのだ。なので、最初から登場人物は多いし、未来文化における常識に基づいて世界は描写されるし、登場人物を彼らを指す専門用語で言及したりするので入り込みづらい。何度も本の最初にある人物紹介と読んでるページを往復してしまった。

 しかし、そこを乗り越えてしまいさえすれば、本当に完成度の高い広大な世界に没入することができる。

 

この世界では過去の大戦争から人類は高度なコンピューターを廃しているので、長期に渡り専門の訓練を受け社会的な階層と化した人間そのものがその代わりを果たしているが、どんなに訓練し、メランジと呼ばれる香料でその機能を拡張しても元の器が人間なので、彼らの感じる恐怖や怒りでその性能が鈍る。そのため、何かある度に登場人物がどいつもこいつも「落ち着け…落ち着け…」と心を落ち着かせる行を行なっている。これが遠未来が舞台の異文化SFにおいて、現代の人間である僕が妙に感情移入できるポイントになっていて良い働きをしていたと思う。

また、この作品がそもそも映画化というか映画化に向かないのではないか、とも強く思った。僕はリンチ版映画の登場人物のそのモノローグの多さを映像作品としてダメな点だと思っていた。んがしかし、読んでみて分かったが、元々この原作は心理描写としてのモノローグが物凄く多い。しかも、映像でもそれを上手く表現することが難しいタイプのものだ。というのも、この物語は、最初から最後まで公式決戦と言われる主人公らのアトレイデス家とその宿敵ハルコンネン家の暗殺合戦であるために、どこに互いの刺客が潜んでいるのか分からず、また多くの登場人物が先述の通り高度に訓練された技術でもって他の人間の心理を読み取ろうとするので、皆が皆表情や声色を変えずに会話する。つまり、映画化において付け足せるはずの視聴覚的な説明という手が、原作通りに作ろうとすればするほど封じられてしまうことになる。こうなると、やはり登場人物のモノローグを入れざるを得ないだろうが、そうすると映画として寒くなってしまう。

デューン」のメランジが元ネタとされる、同じく「スパイス」なるものが密輸業者によって運ばれている世界を描いた「スターウォーズ」が、大まかな背景をタイトルコールとセットのオープニングクロールで説明し、更に舞台となる世界が全く違う銀河であっても主人公らが希求するのが民主主義や自由といった現代人に分かりやすいものであるというのは、既に完成されていて回っている世界をいきなり見せつける手法としては実はとてもよく出来たものだったのだ。

スターウォーズ」との比較を出したが、「デューン」は本編は(定義にもよるが)どちらかといえばスペースオペラ的かつSF史劇だ。エンジニアリングSF的な面白さがあり、本作をSFとして完成させているのは付録の方だ。

他に、この小説では戦いがほとんど描かれないという特徴がある。映画では主人公ポールらの砂漠のゲリラ戦は見どころの一つだったのだが、厳密に言えば原作にはそれらも一切描かれていない。勿論戦いが無いわけではない。ポールの幼い息子まで死に追いやられてしまうような激しい戦いが常に背景にあるのだが、作者は恐らく意図的にそれを直接書いてはいない。戦いが起こる段階になると次の章はもうアフターマスから始まるのだ。勿論、これは直接描写しないことで戦いの激しさを読者の想像力に任せるものであろうが、「スターウォーズ」シリーズの小説を読んで中学時代を過ごした身としては少し寂しい

 

思いつくままに書き殴った上に、なんか途中からスターウォーズの話ばっかりになった。

とにかく、久しぶりに1ヶ月で3冊も読めるくらい面白かった本なので、是非とも続きも読んでいきたい。しかし、フランク・ハーバードのシリーズはともかく、息子らの書いた新シリーズはまだ未訳も多いようでどうしたものか…